2017年8月16日水曜日

新・名句うがち読み 第2回 黒田杏子

能面のくだけて月の港かな  黒田杏子

『一木一草』平成7年より

一読して難解な一物仕立だと感じた。だがどうしようもなく惹かれた。能には詳しくないが能面が自ら砕けるとは思えない(ファンタジー的には美しいが)。ゆえに、とある事情で美しく無表情な能面を容赦無く砕く倒錯した作中主体がいる。そして無残に割れながらも面は破片ごとに光を湛え、あたかも月光に照らされた港のように広がることを切れ字のかなが強調しているのではないか、と推察する。
甘美であるという点だけでも他の追随を許さず、事実だけを述べているようで作中に秘められたドラマの深さに愕然とする。一物仕立にも無限の広がりがあることを示す名句である。



2017年8月13日日曜日

新・名句うがち読み 第1回 家藤正人


        

だからおまへはだめなんだと製氷室が唸る   家藤正人

角川『俳句』平成29年8月より

ひと昔前の冷蔵庫はうるさかった。製氷室は特に。しかしその音に人間味があった。作者は水割りの氷でも取りに来たのだろうか、その音量は深酒をたしなめるかのようだ。ふと上手くいかなかった一日も思い出す。自分のダメ人間ぶりが蘇ってくる。
大胆な破調字余りが冷蔵庫での一コマを印象深くしている。我々まで怒られている感覚に陥る。作者にはお会いしたことがあり、また大変お世話になっている。若く好男子で製氷室にまで叱られるような方ではなさそうなのだが、そのギャップがまた句を面白くしているのであろう。

2017年8月12日土曜日

ブログを引っ越しました。

この度一身上の都合によりブログを移転しました。
俳句を始めたのは、確か2010年付近。エッセイブログにスパイスをというのが契機でした。下手の横好きで勉強をしようともせず、挙げ句の果てには長期間句作をさぼったりと、随分無駄で恥ずかしい時間を過ごしましたが、2014年秋俳句ポスト365との出会いでやっと独りよがりから抜け出して大海に身を投げ打つことが出来ました。随分遠回りをしましたが有り難いことです。近年プレバトがきっかけで句作を始め長足の進歩を遂げている仲間が眩しいやら羨ましいやら。

ブログはこれで三度目の移転になります。自分の殻を打ち破りたい時、今迄のブログを容赦無く捨ててきました。無責任ですがこれが私の脱皮です。
とは言え今回のブログには安住したいと思っております。難しい俳句論は性に合いませんが、触れた秀句の感想などマイペースで綴って行きたいです。たまには羽目を外しつつ。
どうぞよろしくお付き合いくだされば幸いです。

新・名句うがち読み 第2回 黒田杏子

能面のくだけて月の港かな  黒田杏子 『一木一草』平成7年より 一読して難解な一物仕立だと感じた。だがどうしようもなく惹かれた。能には詳しくないが能面が自ら砕けるとは思えない(ファンタジー的には美しいが)。ゆえに、とある事情で美しく無表情な能面を容赦無く砕く倒錯した作中主...