2017年8月13日日曜日

新・名句うがち読み 第1回 家藤正人


        

だからおまへはだめなんだと製氷室が唸る   家藤正人

角川『俳句』平成29年8月より

ひと昔前の冷蔵庫はうるさかった。製氷室は特に。しかしその音に人間味があった。作者は水割りの氷でも取りに来たのだろうか、その音量は深酒をたしなめるかのようだ。ふと上手くいかなかった一日も思い出す。自分のダメ人間ぶりが蘇ってくる。
大胆な破調字余りが冷蔵庫での一コマを印象深くしている。我々まで怒られている感覚に陥る。作者にはお会いしたことがあり、また大変お世話になっている。若く好男子で製氷室にまで叱られるような方ではなさそうなのだが、そのギャップがまた句を面白くしているのであろう。

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