2017年8月16日水曜日

新・名句うがち読み 第2回 黒田杏子

能面のくだけて月の港かな  黒田杏子

『一木一草』平成7年より

一読して難解な一物仕立だと感じた。だがどうしようもなく惹かれた。能には詳しくないが能面が自ら砕けるとは思えない(ファンタジー的には美しいが)。ゆえに、とある事情で美しく無表情な能面を容赦無く砕く倒錯した作中主体がいる。そして無残に割れながらも面は破片ごとに光を湛え、あたかも月光に照らされた港のように広がることを切れ字のかなが強調しているのではないか、と推察する。
甘美であるという点だけでも他の追随を許さず、事実だけを述べているようで作中に秘められたドラマの深さに愕然とする。一物仕立にも無限の広がりがあることを示す名句である。



1 件のコメント:

  1. 酒井おかわり2017年8月25日 19:17

    能面のくだけて月の港かな

    好きな句なんでイタズラ書きに来ました。
    能面の意図するところは感情を表に出さないヒトって私には見えます。
    そして月には海ありますので(実際に海と呼ばれている)立ち位置としては月に住んでいる能面チャンが大激怒したのです。
    図書館で先週に読んだのですが月にはヒトが住んでいます(えほん図書館)
    私や岩魚さんと逆で普段は感情を出さず我慢している能面チャンは月の渚で彼氏が二股している事実を知るのです。
    普段おとなしい方が激怒した場合は普段からプンプン怒ってる人より激しいのは地球の住民も月の住民も同じです。
    能面チャンの涙は枯れていた月の海を満たし能面チャンの怒りのマグマは防波堤と化し港が出来上がったのです!
    って景に私は見えます。

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